和骨董大辞典

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錫の茶器

 

錫でできた茶器は今から約1200~1300年程前、飛鳥・奈良時代に中国から伝えられたといわれています。茶と共に伝来した当時の茶壺が錫でできており、その後錫は酒器、宮中での器、神仏具にも利用されるようになりました。奈良の正倉院にも、遣唐使によって持ち帰られたといわれる錫薬壺が納められているなど、錫は古くから知られている歴史ある材質の1つです。

 

 

錫器の特徴

 

錫が茶器だけでなく、その他日用品としても好まれていった理由は、その素材の特徴にあります。

錫は熱伝導率がとても高く低い温度で溶けるため、銅や鉄に比べると溶かす為に高度な設備が必要なく、民家でも製作が可能なほど扱いやすい素材です。その為、直火や電子レンジにかけることは出来ませんが、酒器としては燗はすぐに温まり、冷酒はより冷えた状態でお酒を楽しむことのできる優れものです。

さらに錫には浄化作用に優れ、一生ものとして使えるという長所もあります。水を腐りにくくする特性は、昔は水の浄化にも使用されたほどで、金属の中でも特殊なその性質は、たとえ水中でも空気中でも錆びることがありません。非常に柔らかい為、衝撃が加わるとへこんでしまいますが、その柔らかさが幸いし元通りに直すことも可能です。また溶かすことが簡単な為、新しいものに作り替えることも可能です。

 

 

錫の茶器

 

錫の優れた特徴は茶器としても広く活用されています。その中でも代表的なものが茶筒です。冒頭で紹介したとおり、1200年前には錫製の茶壺が日本に伝わりましたが、現代でも、茶筒は錫製が最良と言われています。

 

 

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茶葉を保存する上で気を付けなければならないのは、「日光」「温度と湿度」「酸化」です。茶筒で茶葉を保管するにはまず直射日光を防ぎ、温度を保つには保存場所に気をつけ日光を通さない材質のものを使うこと。また湿気や酸化を防ぐには、できるだけ密閉できる茶筒に茶葉を入れておくことがポイントとなります。近年はタッパー等の形成がしやすい樹脂素材で様々なものが作られていますが、これは日光を通し通気性もあり、何より香りを重視する茶葉に周りのにおいが移ってしまうという欠点があります。また、木製のものは日光を通さないものの、木自体が植物なので、湿気や酸素を防ぐことは前提とされていません。対して金属製のものは日光を通さず、酸素や湿気による影響が少なく、陶器や漆器よりも密閉性に優れた素材と言えます。

 

では、金属の中でも「錫」の茶筒が良い、とされる由縁はなにか。それは錫の柔らかさから成る、茶筒の形にあります。金属でも、銅やステンレスで作られた茶筒は、それらを薄く延ばした金属板を筒状に丸め、その後に底板や蓋を張り付けるという形で作られます。さらに、それらを溶接する際に加わる熱で金属は膨張して歪み、板の端を張り付けた部分や蓋を合わせた部分に若干の隙間ができ、締め心地が場所によって変わってしまいます。このように金属を熱して茶筒を成形する方法は、円柱型にはなりますが実際には微妙な歪みが生じてしまいます。

 

しかし、錫の茶筒は熱して成形するのではなく、錫の塊をろくろで削りながら作り出されます。その為取り出し口は正円形となり、底板や蓋を張り付けて作り出す必要がないので、熱による歪みは生じません。さらに、蓋の重みで茶筒内の空気を押し出しながらぴったりと閉まるため、他の素材で作った茶筒よりも密閉され、茶葉の香りが抜けることがないのです。

 

 

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茶筒の他にも、錫製の急須は早く温って温度を保ちますし、内側に錫張りが施されたやかんで水を沸かすと雑味のない湯が沸き、お茶をまろやかにするとも言われます。

錫は花器としても重宝され、その殺菌効果で活けられた花の切り口に雑菌を付きにくくすると共に、水を腐りにくく、垢も出にくくする作用もあります。

 

 

錫製品の注意点

 

錫器は一生使っていける物です。茶器以外にも酒器としての人気も高く、最近では器だけでなくアクセサリーなど雑貨としても親しまれています。

錫は使っていると時間が経つにつれ独特の黒っぽい色味が出て、細かな傷もその色と共に味へと変わっていきます。(ちなみにこの色味が付くほど長年綺麗に保存された錫器は高値で取引されることが多いです。)錆びない為お手入れに手間はかかりませんが、その利便性に富んだ性質により、使用する上で注意が必要です。

 

1.温度

錫は熱伝導率が高く融点が低いため、直火や電子レンジ、また食器乾燥機にはかけられません。熱いものを入れたまま持つと火傷をする恐れもあります。また冷凍庫に入れるのも危険です。冷凍庫に入れた錫器を触ると手が凍りつき凍傷になってしまったり、錫自体の組織変成が起こることもあります。

 

2.変形

前述したとおり、錫は柔らかいので落としたりぶつけたりすると形が変わってしまいます。その特性から元に戻せるものもありますが、茶壺や茶筒などの密閉容器の場合には真っ直ぐに蓋を開け閉めしなければなりません。もし蓋が引っ掛かる場合には、無理に開けようとせず、購入店や専門店へ連絡した方が良いでしょう。

 

3.手入れの仕方

使用後は普通の食器と同様、中性洗剤を使って洗うことも可能ですが、傷の付かない様スポンジの柔らかい面を使用することをお勧めします。また、洗い終わったまま放っておくと水滴跡がシミになる場合がありますので、柔らかい布で拭きとる必要があります。

錫についた汚れは市販のメラミンスポンジ(「激落ちくん」などの洗剤のいらないスポンジ)に水を含ませ軽くこすると落とすことができます。

 

 

 

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